ほめる


かなり前に出会った新聞記事なのだが、切り抜いて大切に保管し、
時々繰り返し読んでいるものがある。「天声人語」という朝日新聞朝刊のコラムである。

教育の本質を突いた内容に大変感銘を受け、以来その記事が私(塾長)のなかで、
子供と接するときの規範の一つになっている。

すばらしい内容なので、以下にその「天声人語」の全文を引用させていただく。


<天声人語>
三遊亭円楽は、真打ちになる前、自信を失って悩み抜き、幽霊みたいにやせた。
見かねたのか、お袋さんが噺(はなし)をきいてやるという。
円楽が演じたあと、母親はしばらく考えてから、いった。「お前は名人だよ」

▼「名人であるわけないや。だけどね、子を失望させまいという母心でしょうね。
朝までないていましたね、私は」と円楽は語っている(テレビ東京)。
ほめる、という行為は時に人を絶望から救う

▼映画監督の山田洋次さんは、人をほめ抜くことが映画づくりでいかに大切かを、
『寅さんの教育論』の中で説いている。目立たない所で工夫したりする人を発見したら、
うんと感謝し、ほめる。大声でくどいぐらいにほめる。むろん、俳優が自信過剰のときは
厳しくしかるが、あとは「どこでほめようかということをいつも考えています」と
書いている。ほめ上手は俳優に自信をもたせる。

▼先月、京王線幡ヶ谷駅そばの小さな芝居小屋で
「演劇集団・野口すみえ一座」の公演を見た。
一生懸命精神のみなぎる舞台に感心したが、
よかったのは終わってからの女座長の口上である

▼「舞台は役者だけではだめです」といって、音響、照明、受付の人たちまできちんと紹介して
労をねぎらい、そのたびに狭い小屋に熱い拍手がわいた。
雨もよいの春寒の夜だったが、ゆたかな気持ちで小屋をでた

▼女座長は、けいこ場では男の座員のしりを扇子でたたくほどの激しさだが、
イイゾ、スバラシイゾとほめ抜くのも忘れない。
大企業の幹部がけいこ場の見学に来ては
「いい勉強をさせてもらった」と頭を下げて帰るそうだ

▼私たちは ほめ下手で、けなすことには熱中するが、ほめることに妙に照れる。
総じていえば「ほめる文化」がいちじるしく欠落しているような所がある。
「ほめ」の殺し文句がもっとちまたに満ちたほうがいい

▼大先輩の教訓に---

「ほめ言葉のコツがある。 ひとこと 『さすがだね』 といえ」



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